田村のやさしく語る現代文(代々木ライブラリー)

僕がこの本を読んだとき、率直に感じたことが
あぁ、「読解力ある子はできるのに、読解力ない子はできないこと」を集めたらこんな感じだね!
ということでした。
YouTubeの武田塾チャンネルさんはじめ、多くの方々がこの本を推していますが、ネット界隈では

この本はやらなくていいよ…

当たり前のことしか書かれてません。
といった否定的コメントも散見されています。
それもそのはず。この本は「本文や設問に書いてあることを、ありのまま受け止める大切さ」を伝えようとしているため、基本的な国語力が身についている人にとって既知の情報しかないように感じてしまうからです。
しかし裏返せば、この本には、現代文を解くのに必要不可欠なエッセンスが凝縮されているとも言えます。1つでも知らないことがあれば大問題。血肉と化すまで自分に浸透させておく必要があるでしょう。

読解力に自信のない子がやるような、はじめの一冊に適しています!
基本情報
・ページ数:185
・出版社:日本入試センター
・サイズ:A5
・発売日:2020/6/24
この本の概要
医系専門予備校やMedFixのオンラインコーチングにて、数々の医学部受験生を小論文指導してきました。共通テストの国語はいわずもがな、小論文でも国語力が問われる出題がされたり、本文を要約させたりする出題が見られます。

国公立医学部や兵庫医科大学は現代文的な力を、獨協医科大学や北里大学は要約力を問う出題をしてきますよね。
受験生を指導していると、
あらぁ〜↑ 読解力ないんでちゅね〜(裏声)
と感じてしまう受験生が多く存在していることに気付かされます。読解力がないと、
- 筆者のイイタイコトが把握できない
- 設問の意図と異なる回答をしてしまう
- ほかの科目を勉強する上でも困難となる
といった弊害が起きかねません。受験上、読解力がないのは大きなディスアドバンテージです。
しかし、そのような読解力ない子であっても、この本を読めば改善される見込みはあります。
この本は、
✅第一部:現代文の基礎(どこをどう読むのか、テクニック)
✅第二部:入試現代文に挑戦(実践)
という構成になっており、現代文の心構えを身につけた上で実際にトレーニングを積むことができるようになっています。
この本に書いてあることを簡単にまとめると、「本文や設問に書いてあることを、ありのまま受け止めましょう」ということでしょう。“論理的・客観的に文章を読む” というのが本書のキーワードになっています。

え?本文や設問に書いてあることをありのまま受け止める…なんて、アタリマエじゃないですか?

そう!でも、そのアタリマエがけっこう難しい!
例えば、こちら。
「本文」で一番大切なのは筆者の<結論>であって、内容的に難しいところではない。
文章全体を考える場合には、文章の最後と最初を見逃さないようにする。
<逆接>の接続詞は、そのあとの内容が重要であることを示す。
引用:田村のやさしく語る現代文
この本の一部を拝借していますが、上の事項はどれも現代文を解く(読解する)上では常識です(でも、読解力のない子はできていない)。
また、特に僕が痺れた指導内容がこちら。
現代文で最も重要な言葉は「助詞・接続詞・指示語」である。
引用:田村のやさしく語る現代文

この文章を見たとき、思わず「そうそうそう!」って叫びました!(心の中で)
読解力のない子って、助詞や接続詞、指示語などをテキトーに扱っているんですよね。これは現代文だけでなく小論文にも通じるものです。すべてを語っているとそれだけでこの記事が長くなってしまうため、助詞だけピックアップしてお伝えしていきましょうか。
私はフランス語も話すことができます。
読解力のない子は、この文章を読んだとき

はぇ〜フランス語ぉ。すっごいなぁ…
としか感じませんが、読解力の基礎ができている子は

「も」ってなんだよ「も」って。あとほかに何話すことができるんだよ。
と感じているでしょう。並立・追加を表す助詞「も」があることで、本文に明記されていなくとも、「フランス語以外の外国語が話せること」を暗に示しています(素直に解釈できる)。
私は飲み会に行きます。
こちらの文章も、他と違うことを暗に伝える助詞「は」があることで、「ほかの誰かは飲み会に行かないこと」を暗に示しています。
例は助詞しか載せませんでしたが、このように助詞・接続詞・指示語は本文・設問において重要なマイルストーンとなります。これらを軽視して、現代文・小論文の上達は厳しいでしょう。
📝代表的な助詞
助詞 | 用法・意味 | 例文 | 解説のポイント |
---|---|---|---|
は | 主題提示/対比 | 私は行きません。 | 他との違いを際立たせる(対比) |
が | 主体の提示/対照・発見 | 彼が来た。 | 新情報や主語を明確に示す |
を | 動作の対象 | 本を読む。 | 動作が向かう対象を示す |
に | 到達点・目的・受け手 | 学校に行く。 | 場所・目的・対象の明示 |
へ | 方向 | 東京へ向かう。 | 「に」と似るが方向性に特化 |
と | 並列・引用・条件 | 彼と話す。「行こう」と言った。 | 対話・引用・比較の重要な手がかり |
も | 並列・強調・極端 | 私も行きます。一円もない。 | 追加・強調・例外なしのニュアンス |
で | 場所・手段・材料・原因 | 学校で学ぶ。電車で行く。 | 行動の場・手段・理由を示す |
から | 出発点・理由・材料 | 家から出る。雨だから休む。 | 原因や起点に注目 |
まで | 範囲・限界 | 明日までに提出。東京まで行く。 | 範囲や終点を意識させる |
より | 比較・起点 | 彼より速い。ここより遠い。 | 比較構文でよく使われる |
や/とか | 並列(例示的) | リンゴやバナナを買う。 | 「など」の含みがあり柔らかい表現 |
📝代表的な接続詞
種類 | 接続詞 | 役割・意味 | 例文・ポイント |
---|---|---|---|
順接(因果) | だから、それで、したがって、ゆえに | 前の内容から当然導かれる結果 | 「理由 → 結論」の流れをつかむ |
逆接 | しかし、だが、けれども、にもかかわらず、とはいえ | 前後の内容が対立・反論 | 重要な論点の転換点になりやすい |
並列・添加 | そして、また、さらに、なお | 内容を加える・列挙する | 複数の主張・事実をまとめている |
対比・選択 | 一方、逆に、または、あるいは | 対照関係・別視点の提示 | AとBを比較・対比して論理を展開 |
説明・補足 | つまり、すなわち、なぜなら、たとえば、言い換えれば | 前の内容の補足や具体化・要約 | 抽象→具体、理由や再説明に注意 |
転換・展開 | ところで、さて、では、それでは | 話題・視点の切り替え | 本筋からの脱線や次の段階への移行 |
結論・まとめ | よって、以上から、結局、総じて、要するに | 論のまとめや結論提示 | 筆者の主張・結論が出てくる |
📝代表的な指示語
種類 | 指示語 | 役割・意味 | 読解のポイント |
---|---|---|---|
こそあど:事物 | これ・それ・あれ・どれ | 物・事柄を指す | 「それ」は一つ前の文を指すことが多い |
こそあど:場所 | ここ・そこ・あそこ・どこ | 場所を指す | 場所の対比に注意(ここ=筆者側、あそこ=読者側など) |
こそあど:方向 | こちら・そちら・あちら・どちら | 人・方向・立場を指す | 会話文や意見の対立で登場しやすい |
こそあど:程度・性質 | こう・そう・ああ・どう | 状態・方法を指す | 「そうすると」など、抽象的に文全体を指すことも |
その他:文指示 | このように・その結果・そのため・その一方で | 直前の文や段落を指す | 接続詞的にも機能し、論理のカギになる |

この本で紹介されている読解のポイントはまだまだありますよ!
この本の良い点
大きく分けて、この本の良い点は5つあります。
①読解で必要不可欠な姿勢が学べる
この本、最大のメリットです。上でも述べてきたとおり、
これ知らないと、現代文できないよ!読解力つかないよ!
というエッセンスが凝縮されています。現代文の偏差値がブレブレな人、小論文の要約が苦手な人は、読んでおいてまず損はしないと思いました。
②文章の苦手な人に配慮されている
この本の珍しいところは、本を読み進めるにつれ、語り口調から次第に堅い口調となっているという点です。そのため、文章慣れしていない受験生も、本書を読み進めながら徐々に本番レベルへ近づいていくことができるという配慮がなされています。

柔らかい口調だと、分かりやすいけど本番レベルに到達しない。堅い口調だと、本番レベルだけど読み進める気にならない。本書は、それぞれの良い点を抜き取ったすばらしい工夫がされていますね。
③薄い本なのでサラリと学べる
総ページ数が185Pと決して多くはないですし、本文も大きめの文字で書かれていたり、行間がしっかり空いていたりしているため、1ページあたりの文章量もそこまで多くないです。
本書の構成をより詳細に見てみると…
第一部 現代文の基礎を身につけよう!(計74P程度)
①現代文はこれがわかればできる!
②現代文を解く道具はこれだ!
③現代文、ここまでわかれば立派!
第二部 入試現代文に挑戦しよう
入試本番レベル7題+日本国憲法前文
春休み・夏休み・冬休みなど、まとまった時間のとれる受験生なら、ほかの科目を勉強しながらでも1週間程で読了し終えることができるでしょう。

時間のない受験生にとって、これはありがたいですね!
④解説と問題が別冊で演習しやすい
「第二部 入試現代文に挑戦しよう」では、問題が別冊になっているので演習がしやすいです。いまとなっては当たり前なのかもしれませんが、
この、問題のほうを別冊にするってのは僕が『現代文講義』で初めてやったんだぞ(と、自慢してしまう)。
引用:田村のやさしく語る現代文
といった記述があるので、もしかすると田村秀行先生が先駆者なのかもしれませんね。
⑤値段が安い
参考書は全般的に値段が安めですが、この本は参考書の中でも特に安いです(税込880円)。
この本の悪い点
良書だと私は捉えていますが、強いてあげるなら以下4つの悪い点があるかもしれません。
①既知の情報が多い
先述のとおり、この本は「本文や設問に書いてあることを、ありのまま受け止める」という、至極当然のことが書かれています。たしかに、現代文で必要不可欠なエッセンスを凝縮している感がありますが、それでも必要不可欠なエッセンスだけが書かれていて、それ以上のテクニックはそこまで掲載されていません。
先ほど、ネット界隈では

この本はやらなくていいよ…

当たり前のことしか書かれてません。
という否定的コメントがあると述べましたが、現代文の基礎力がある人にとって目新しいことが少なく感じてしまうのかもしれません。

万人受けする参考書なんて作成できませんからね。初学者をターゲットに絞っている点は理解しといた方が良いでしょう。
②この本だけで攻略できない
「①既知の情報が多い」と重複してしまいますが、この本だけで現代文・要約問題を攻略することはできないという点も注意しなければなりません。
事実、「第二部 入試現代文に挑戦しよう」で問題にぶつかってみると、解けない問題は多くでると思います。そうなんです。この本 “だけ” で終わらせようとするのは厳しい。
この本はあくまで「初学者が最低限身につけておきたいこと」に焦点をあてているため、この本を学んだ後は+αの学習が必要になります。
共通テストを受験する人は、共通テスト攻略用の参考書を。
記述式・要約のある大学を受験する人は、記述式・要約用の参考書を。
小論文の課せられる大学を受験する人は、小論文の参考書を。
それぞれステップアップして学習していくようにしましょう。
\要約問題を攻略したい人必見!/
③白黒の記述|読みやすい工夫が少ない
白黒の『医学部受験完全攻略マニュアル』を出版している僕が言えた話ではないですが、この本は白黒で書かれているのに加え、字が主体で図はほぼない仕上がりになっています。そのため、文字を読むことに慣れていない、最近のカラーな参考書に馴染んでしまっている受験生にとっては辛いかもしれません。
また、重要なことをドンドン述べるに留まり、要点を整理をしたり、一覧をまとめたりといった工夫がないのも惜しく感じました(例えば、上で「代表的な助詞」「代表的な接続詞」「代表的な指示語」を僕がまとめましたが、本書ではそういった記載がない)。

「読解のトレーニング」と思って割り切りたいところです!分からない点は自分で調べていくことも大切になりますよ!
④やや行間の空いた指導、解説がある
言葉になってないものが<論理的>なわけはないよ。
引用:田村のやさしく語る現代文

(小説や小論文の中には、本文に書いてないことを自然かつ合理的に推測させる問題もあるよなぁ…)
とか、
<逆接>の接続詞は、そのあとの内容が重要であることを示す。
っていう絶対的な性質がある
引用:田村のやさしく語る現代文

(言うねぇ…。<逆接>の接続詞はたしかに大切だけど、そのあとの文章で大切でない文章がくることもザラにあるけどなぁ…。少なくとも“絶対”っていうのはどうだろう…。)
といった感じで、間違っているとは言わないけれど「んぅう?」って感じる指導、物足りない解説が多かった印象を受けました(現代文という科目の性質上、これは仕方のないことかもしれませんね)。
個人的には、「重要でない問題の数を減らし、重要な指導、問題の解説に文章を割いた方が良いのでは?」と感じました。
どんな人におすすめか?
以上、良い点と悪い点をお伝えしてきましたが、読解力のない人にとって“はじめの一歩”的な良書だと捉えています。
なお、本書に書かれている内容をすべて体得している受験生は少ないため、僕はすべての受験生がこの本を手に取って学習すべきだと考えています。
