小論文は5段階で評価される
結論から言えば、小論文はA・B・C・D・Eの5段階で評価されていると考えて良いでしょう。「え、評価方法を開示していない大学もあるよ?」「100点満点で数値化する大学もあるじゃん!」「合否の参考にする、としか書いてない大学もあるけど…」と考えた方もいらっしゃるでしょう。でも、こと小論文において評価方法は気にする必要はありません。
例えば、「共通テストの数学で80点取った!」と言えば、皆さんも「すごいね!僕、数学苦手だからそんなに取れない!」とか「やるねぇ。でも、医学部受験生たるものもう一歩欲しいな。」といった具合に、ある程度の評価を下すことは可能でしょう。
しかし、小論文の場合はどうでしょう? 「○○大学の小論文で60点だった」と言わてれもピンと来なくないですか? 小論文は(面接と同様)人が人を評価する科目であるため、明確な基準を用意していても、それを判断する採点官によって点数がブレてしまうんですね。それこそ、同じ答案を別の採点官に見せたとして、1人は「んー、まぁ日本語として伝わるし、文章力・表現力80点かな!」と捉える人もいるでしょうし、もう1人は「んー、組み込み文章が散見されるし、ナンバリングも整っていない… おまけに誤字・脱字も2回してるし、これは文章力・表現力30点だな」と捉える人もいるでしょう。だから、小論文の評価を細かく気にする必要はないのです。
小論文はB答案を目指せ
A・B・C・D・Eの5段階のうち、皆さんに目指していただきたいのがB評価です。以下にその理由を説明していきます。
上図のとおり、A・B・C・D・Eの5段階評価は均等ではなく、Aが3%、Bが30%、Cが30%、
Dが30%、Eが7%と、その分布が偏っています。これは僕が各社の小論文模試の採点官を務め、
何千・何万枚もの答案を見てきた中で取られていた運営方法であるため、小論文業界である程度の採点ルールが出来上がっていると確信をもって言えます。
小論文は満点のない科目です。完璧を目指そうとしすぎるのはNGですよ!
そのため、皆さんはざっくりと「B・C・Dの3評価で上位1/3、中位1/3、下位1/3が振り分けられているんだな」と考えておけば良いです。このうち、A評価は安定してとることができないため、皆さんが目指してほしいのは、どのテーマが来ても安定してB評価を折ることができる力なのです。
A答案とはどういったものか
先ほど、A答案とは上位3%の層であると述べました。A答案とは、言い換えれば「オリジナリティある答案」とか「教授に気に入られた答案」のことを指します。以下の例題を通し、A答案とはどういったものかについて学んでいきたいと思います。
例題
問1.あなたが解決したい現代問題を取り上げ、その理由について論じなさい。
問2.問1であげた現代問題を解決するため、今までにない新たな単位をつくり出してください。つくり出した単位がどういった単位であるか、どのように解決するのかも述べなさい。
※単位の例としてkg、m、ℓがあるが、今回は世の中にない、新たな単位を創出する。
慶應義塾大学SFC2011 改題
この例題は、僕が慶應義塾大学SFCを合格した際に出題された過去問です。正直、どう答えていいか困ってしまいますよね。この年、僕は英語で合格最低点を取ってしまったため、小論文でほぼ満点を取らなければ落ちてしまう、という状態でした。しかし、合格することができたことからも、僕がこの小論文でほぼ満点(A評価)をとることができたことがうかがえます。
では、僕はどういった小論文を書いたのか、ザっとですが以下に概要をまとめました。
どうでしょう? スクールでも僕の書いたこの再現答案は解説で用いていますが、生徒の99%は「すばらしい提案ですね! これはA評価でもおかしくないです!」と褒めてくれます。
たしかに良い答案なのかもしれません。しかし、毎回毎回、出題されるテーマについてこれほど高いレベルの提案が思いつくわけありません(小論文を研究し尽くした僕だって不可能です)。そのため、皆さんはA評価を目指さなくて良いですし、A評価を取れなくても落ち込む必要はないのです。
落とされる答案の特徴5選!
では、小論文でやってはいけない解答、つまりE評価答案とはどういったものでしょうか。以下に”やってはいけないこと”を列挙していきますので、皆さんは小論文を書く際に絶対やらないよう細心の注意をはらってください。これらに該当する答案はE評価、つまり英語や数学といった学科がどれだけ良くてもノックアウトされると捉えておきましょう。
字数の過不足、途中答案
合格9割、最低8割との呪文を覚えておきましょう。「800字以内で述べなさい」とある問題であれば、720字以上が合格者平均、640字以上が見てもらえる最低ラインになるわけです。それゆえ、皆さんがどれだけ小論文を苦手としていたとしても、8割以上書くことは死守しなければなりません。
字数制限の規定については以下のとおりになります。
設問に答えていない
設問に答えていない、パターンは大きく3つに分かれます。
論点のズレパターン
例題
「競争社会」について、800字程度で論じなさい。
杏林大学2018
E評価の例:おかまる作成
私はいま、受験競争に立たされている。受験競争に勝つことで、自身の理想とする職業・生き方を追求することができるため、だれもが懸命に努力しているのだ。しかし、現代において他者を蹴り落として勝ちあげる姿勢は褒められるべきではなく、むしろともに共生し歩んでいく“共存社会”が必要だ。以下に、私の考える“共存社会”について論じる。
上の例では、問われている論点と主張しようとしている論点にズレが生じていますよね。明らかなNG例ですが、年に数人はやってしまう人がいるため、注意しておいてください。
論点落としパターン
例題
(中略)少子化についての問題点を整理した上で、あなたの考える対策案を600字以内で述べなさい。
国際医療福祉大学2018
E評価の例:おかまる作成
少子化の対策案を以下に2点提言したい。1つ目は、男性の育休取得の推進だ。厚生労働省によれば、「母方ばかりに負担が偏り2人目を育てる体力がない」と考えている人が多数を占めているという。そのため、企業へのセミナー・社会への啓発を通じ、男性の育休取得および育児参加を促していくことが肝要である。2つ目は、教育費用のサポートだ。厚生労働省によると、「教育にかかる費用が高い」と考え、出産を諦めている家庭が多いという。そのため、義務教育期間に限らず、高等教育機関へ進学する者への補助金や奨学金制度の啓発・充実化を図るべきであろう。
子どもは日本の未来を担う重要な資本である。今後は、少子化対策に力を注ぎ、持続可能で豊かな発展が遂げられるようにすべきだ。
上の例では、少子化についての問題点が言及されておらず、論点を落としていますよね。この場合、本来100点満点評価であるところ、頑張っても50点満点評価の試験となってしまい、自身の首を絞めることになってしまいます。
意図を汲んでいないパターン
例題
日本では出生数が90万人を下回り、国家の活力維持に危機感が迫っています。(略)
少子化についての問題点を整理した上で、あなたの考える対策案を600字以内で述べなさい。
国際医療福祉大学2018
E評価の例:おかまる作成
私は「なにもしないこと」こそ最善の対策だと考える。理由は、少子化にはメリットが多くあるためだ。まず、少子化が進行することで温室効果ガスの排出が抑えられ、地球温暖化の進行を遅らせることができる。また、1教室あたりの生徒数も減少するため、いま以上に密な教育を受けさせることができ、学力の向上にも繋がるのではないか。さらに…
上の例では、大学側が「国家の活力維持に危機感が迫っています…」と述べ、少子化を解決したいという意図を示しているにも関わらず “少子化対策はすべきでない!”との主張をしてしまっています。たとえロジカルで表現力の高い文章を書いていたとしても、これでは空気が読めておらず落とされてしまいます。
キーワードを使用していない
これも先述の論点落としに近いのですが、設問で要求されている要件を満たしていない場合も落とされてしまいます。以下の例題であれば、要求されている「宗教」「コミュニケーション」とのキーワードを用いなければ、即落とされてしまいます。
例題
外国人患者が来院したときの留意点について、250字~300字以内で述べよ。ただし、記述の際は以下のキーワードを必ず用いること。
・宗教
・コミュニケーション
帝京大学2019
E評価の例:おかまる作成
私は「なにもしないこと」こそ最善の対策だと考える。理由は、少子化にはメリットが多くあるためだ。まず、少子化が進行することで温室効果ガスの排出が抑えられ、地球温暖化の進行を遅らせることができる。また、1教室あたりの生徒数も減少するため、いま以上に密な教育を受けさせることができ、学力の向上にも繋がるのではないか。さらに…
誤字・脱字が激しい、著しく字が汚い
僕が小論文模試の採点官をしていた際、「誤字・脱字については、3回やったら5点マイナス、5回やったら10点マイナス」といった具合で数値化して決められていました。つまり、何度も何度も誤字・脱字をしてしまうと、それだけ減点が大きくなってしまうのです。そのため、“看護師”“患者”といった、何度も文章中に登場するキーワードについては特に誤字・脱字を注意してください。何度も何度も減点されてしまいます。
また、著しく字が汚く雑である答案は、添削官の心象を大きく損ねE評価となってしまいます。大学で添削官をしていた教授も「そのような答案がきたら、大きく✕だけ付けています」と断言していました。「私、字がきれいじゃないのですが…」という方も大丈夫。字がきれいでなくとも“丁寧”であれば良いのです。具体的には、以下の点に注意しながら記述すれば、まず減点はないでしょう。
✓ 文字を大きく書く
✓ 直線的に書く
✓ スキマを空けて書く
倫理・道徳・人間性に問題がある文章
医学部で面接・小論文といった科目が用意されているのは、読む・聴く・話す・書くといったコミュニケーション能力を点検する目的だけでなく、医学部生たるに相応しい倫理・道徳・人間性を備えているかを点検する目的があります。そのため、「高齢者は全員いなくなればいい」とか「外国人との交流はせず自国だけで発展していくべきだ」といった偏った考えはNGです。
形式さえ守れば、過度に恐れずともOK
ここまで、E評価に該当する答案とはどういったものかを見てきましたが、E評価に該当する答案とは形式面のミスが多いことに気づきましたか? 「字数の過不足、途中答案」「設問に答えていない」「設問に答えていない」「キーワードを使用していない」「誤字・脱字が激しい、著しく字が汚い」といったチェック項目は、どれも形式的なものですよね。法令順守である医療現場では、こういった細かな作法を守れない人は排除されてしまいます。
一方、倫理・道徳・人間性に問題があるとしてE評価をくらってしまうのはまれです。これらは主観的なミスであって、人によって価値判断基準が異なってしまうものです。よっぽどのことがない限りバッサリと落とされることはないので、あまり恐れずに小論文へ挑みましょう。