皆さんにお聞きしたいんですが、小論文のプロ講師が問題にぶつかったとき、「どこを」「どういった」視点で点検し「どのような」考えで執筆しているか気になりませんか?
最初に結論をお伝えすると、小論文プロ講師はこのような思考プロセスを辿って問題に取り組んでいます。
今回の動画は、皆さんにこちらのフローチャートを学んでもらい、僕と同じような思考法をインストールしてもらうのが目的です。
これまで何度もお伝えしたとおり、小論文の採点官が最も注視するのは文章構成です。なぜなら、教授や講師は多忙な業務を抱えているにも関わらず、試験から合格発表までの日程はあまりに短く、受験生の書いた文章なんてザッとしか読むことができないためです。
✅序論・本論・結論
✅起・承・転・結
✅たしかに・しかし・なぜなら・よって
小論文には実に多くの書き方(文章構成)が存在しますが、小論文はただの説得学であって、説得力さえあれば、結論が先に来ようが最後に来ようが、アラブのことわざを入れようが何しようがかまわないからです。
しかし、「これだけ覚えればどんな問題も大丈夫!」と言える万能な文章構成は存在せず、“この書き方が一番良いね” と言える文章構成は出題された問題によって大きく異なってしまいます。
✅ロジカルで感覚に頼らない小論文対策がしたい
✅問題にぶつかったとき、どこに注意して文章を読み、どのような手順で捌けば良いか知りたい
✅小論文が課せられる複数の医学部を受験する予定である
✅試験当日、あらぬ問題が出題されても冷静に対処できる力がほしい
このように、丁寧な小論文対策がしたいと考えている方にとって最適な記事となっています。
それでは、小論文プロ講師の思考法を1つ1つインストールしていきましょうか!
★ 設問で問われている主文が、1つ or 複数?
それでは、最初のステップです。まずは、設問をじっくり読み
✅「何を」「何点」問われているのか
✅ “主文”と“従文”の関係はどうであるか
これらを丁寧にチェックしていきましょう。
こちらの問題をご覧ください。
「人を疑う」ということについて、800字程度で論じなさい。
この問題では「何を」「何点」問われているでしょうか?
「人を疑う」ということについて1点問われていますよね。
このように、“主文”として問われていることが1つしかない場合は、フローチャートの下へと進んでください。
では、こちらの問題はいかがでしょう。
著者はなぜ共同決定することが必要であると説いているのか。その理由とそれに対するあなたの考えを述べなさい。(400字以内)
本文がどのような内容であったかは置いといて、こちらの問題では「何を」「何点」問われているでしょうか。
「(著者が共同決定を必要と考える)」と「(それに対する)あなたの考え」
この2点が問われていますよね。
このように、“主文”として問われていることが複数ある場合は、フローチャートの右、複数解答型へと進んでください。
複数解答型についてはこちらの記事で詳しい書き方を解説していますが、簡単にまとめますと、問われた個数分段落分けするというものでした。
先ほどの問題で言えば、問われているのは「理由」と「あなたの考え」 この2点であるため、
▶︎第1段落で、著者が共同決定を必要と考える理由
▶︎第2段落で、あなたの考え
そして字数に余裕があれば、
▶︎第3段落で、「良い終わりだなぁ…」と思わせるような読み切り段落(ソフトランディング)を設ける このように執筆していくのが妥当です。
フローチャートに書いてある“主文”と“従文”ってなんですか?
主文と従文についても、例題を通し説明していきましょう。
こちらの問題をご覧ください。
あなたは、どのようなターミナルケアを実践しようと考えますか。課題文の筆者の主張を踏まえて、あなたの考えを600字以内で述べなさい。
メインで問われていることは、「あなたは、どのようなターミナルケアを実践しようと考えますか」という点ですよね。
でも、それに付随する形で「課題文の筆者の主張を踏まえて、」というおまけ文言が付加されています。このとき、前者のような文を主文と呼び、後者のような文を従文と呼んでいます。
皆さんに質問ですが、主文と従文どちらの方が大切であって、どちらに文章量を割かねばならないと思いますか?
主文で問われていることの方が重要であって、主文の方に文章量を割くべきですよね!
こちらの問題であれば制限字数が600字であるため、120字で筆者の主張を踏まえたら、残り480字であなたの意見を盛り込むのが妥当な字数配分です。
従文はあくまでおまけなんですから、メインで問われた主文に付随する形でちょろちょろっと答えればそれで良いのです。
では、先ほど登場したこちらの問題はいかがでしょう?
著者はなぜ共同決定することが必要であると説いているのか。その理由とそれに対するあなたの考えを述べなさい。(400字以内)
こちらの問題は、「(著者が共同決定を必要と考える)理由」と「(それに対する)あなたの考え」
この2点が問われています。
真ん中に並列助詞の「と」があるだけあって、両方とも同じくらいの重要度、つまりどちらも主文にあたると言えるでしょう。
段落とは1つのイイタイコトの集まりなんですから、同じ文章量で答えるならば
「この段落では筆者の理由を書きます!」
「この段落では私の考えを書きます!」
といった感じでメリハリつけるのが読みやすい文章ですよね。
✅ 設問では「何を」「何点」問われているのか
✅ “主文”と“従文”の関係はどうであるか
小論文のプロ講師は、この2点をまず最初に点検していることを強く意識してください!
★ 問われていることが、あなたの意見 or 要約?
それでは、次のステップです。
主文として問われているのが、“あなたの考え”であるか“筆者の考え”であるかを点検しましょう。
これは容易に判断できると思います。
「人を疑う」ということについて、800字程度で論じなさい。
先ほどご紹介したこちらの問題は、“あなたの意見”を問うているのが明白ですよね。
この場合はフローチャートの下、「★ABCD分析の実施」へ進んでください。
一方、こちらの問題はいかがでしょうか。
課題文で、筆者は「人生の完成」とはどういうことだと述べていますか。100字以内で答えなさい。
こちらの問題は“筆者の考え”を説明する形式になっていますよね。
このように“あなたの意見”ではなく、“筆者の考え”や“要約・説明”を求められたときは、通常の小論文チックな回答を心がけるべきではありません。これは読解力を点検している問題です。
このような問いが来たときは、自身のオリジナリティあふれる解答をすべきでなく、むしろ本文を愚直に受け止める真摯さが求められます。
こちらの記事で要約・読解・説明問題のすべてを凝縮していますので、短時間で確固たる文章読解力を身に付けたい方はぜひご視聴ください。
★ ABCD分析の実施
それでは、最後のステップです。
ここは小論文の本質を見抜く大切なステップですので、やや小難しい内容が入ってきますが、ぜひとも食らいついてください!
まずはゴールをお伝えします。
設問ごとにA・B・C・D 4つの要素を○✕でチェックしていき、
✅ 〇が多ければ問題提起・分析・解決型
✅ ✕が多ければ結論先行型
このような思考法になっています。
1つずつ順を追って説明していきます。
A. 本文・図表・写真・絵画等、受け止めるべきものがある
✅本文が掲載されている
✅図表(グラフ)が掲載されている
✅写真や絵画が掲載されている
このような場合、出題者は丁寧に受け止めてくれることを期待しています。
そのため、本文・図表・写真・絵画等、受け止めてほしそうなものが掲載されていたときには、必ず「受け止めましたよ〜」「読みましたよ〜」というのが分かる文章を盛り込みましょう。
こちらの記事で解説したとおり、提起・分析・解決型は
「はたして〜だろうか。」
「こうだから(理由)」
「こう考えます(結論)」
といった文章構成になっていましたよね?
このうち、「はたして〜だろうか。」の上部分で
✅本文、図表、写真、絵画の受け止め
✅社会の現状
「以上より、〜である。」の下部分で
✅想定される反論の受け止め、注意点
✅結論の深掘り、具体化
このような記述をすると、自然な流れで字数を膨らますことができるんでした。
提起・分析・解決型は「本文では〜と書かれている」「この写真からは〜ということが推測できる」といった感じで、受け止めるスペースがもとより確保されているんですよね。
それに対し結論先行型は、
「私は〜と考える。理由は以下の2点だ。」
「1つ目は、〜であるからだ。」
「2つ目は、〜であるからだ。」
といった端的な書き方をするため、受け止めるスペースがもとより確保されているというわけでなく、工夫して記述する必要があります。
そのため、本文・図表・写真・絵画等、
受け止めるべきものがある場合は、提起・分析・解決型に1票。
受け止めるべきものがない場合は、結論先行型に1票が入ります。
B. 設問の文言が多義的である
多義的とは、何を論ずるか人によってテーマが異なってしまうことを指します。
こちらの問題文をご覧ください。
「人を疑う」ということについて、800字程度で論じなさい。
どうでしょう? ちょっと取っ付きにくい問題ですよね。
なんで取っ付きにくいか分かりますか?
この問題って、「人を疑う」の何について論ずるか明確に定まっていないですよね。
そのため、
✅「人を疑う」の定義
✅「人を疑う」ことは良いのか悪いのか
✅「人を疑う」ことで医療に活かせること
受験生によって、そもそも論じるテーマが変わってきてしまいます。
このように、設問で問われていることが漠然・不明確であることから、何について論ずるか人によってテーマが異なってしまう文言のことを多義的といいます。
一方、こちらの問題はどうでしょうか。
(中略)医師の長時間労働を改善するにはどうしたらよいか。600字以内で述べなさい。
この問題に直面したとき、
✅「地域枠」を推進すべきだ
✅「かかりつけ医制度」を推進すべきだ
✅「ローテーション制」を推進すべきだ
といった感じで、受験生ごとに提言する結論は異なってくるものです。
なぜなら、小論文は完全な答えがない科目であって、「これ良いね!」「お、それも良いね!」と言えるような答えが複数存在するためです。
しかし、この3人は「医師の長時間労働問題の解決策」について論じている点では一緒であり、論じているテーマは同じであると言えます。
このように、受験生によって論じるテーマが変わらない文言のことを一義的であるといいます。
皆さんが多義的な(ふわっとした)テーマに直面したときは、まず第一段落目で何について論ずるのかを明確にすべきであるため、提起・分析・解決型の方が馴染みやすい傾向にあります。
一方、一義的なテーマに直面、つまり「何を問うているかハッキリしている」問題に直面したときは、問題提起という回りくどい段落を設けず、第一段落目で結論をスパッと述べる結論先行型が好ましくなります。
C. テーマが抽象的である
抽象って曖昧ってことでしょ?
って思った方、抽象と曖昧は少し違います。
ここでは抽象的という言葉の意味を適切に理解し、小論文の性質判断にも応用したいと思います。
こちらの図をご覧ください。
「犬」「猫」「猿」といった言葉が置いてありますね。
これらの言葉って、まとめるとどんな言葉で括ることができますか?
そう、「動物」という言葉で括ることができますよね。
このように、あらゆる意味を包含した上位概念のことを抽象と呼びます。
「動物」は「犬」「猫」「猿」の抽象である、ということですね。
一般的に、抽象的になればなるほど形は帯びなくなり、概念的なものとなってしまいますが、その本質的な意味は「抽」出した対「象」、つまり下位概念を抽出してできた、あらゆる意味を包含する上位概念だということなんです。
一方、具体とは、こちらの図でいうところの「チワワ」とか「ベンガル」といったもの、つまりより個別的な下位概念となります。
この違いをきちんと理解してくださいね。
では、小論文において「抽象的なテーマ」「具体的なテーマ」とはどういうことでしょう。もう少し深く学んでみましょうか。
抽象度の高いテーマ例を挙げますと、生命倫理や人間性、社会観を問うているものが多くなります。
つまるところ、「細かい知識はいいから、それより君のハートを見せてほしい」という思いを込めているのが抽象度の高いテーマになります。
こういった抽象度の高いテーマは、知識が要らない、抽象度の高い結論が望ましくなります。
例えば、「愛について論じなさい」とか「平和について論じなさい」といった抽象度の高いテーマが出題されたとき、
愛と平和に関する国際会議を週に2回、月曜日と水曜日に開催し、18:00~20:00までの議論でまとまらなかった部分については土曜日に…世界200カ国で議論をし…
といった感じで具体的に記述されても、添削官は
そ、そんなことまで書くか普通…? もっとこう…『話し合いが大切~』とか『協調する姿勢が大切~』みたいな結論でいいのになぁ…
といった心象を抱くでしょう。
一方、具体的なテーマとしては、ニュース・新聞でみるような現代問題が挙げられます。
✅医師の長時間労働
✅救急車の適正利用
✅新種のウイルス
といった具合に、現代問題がピックアップされたときは「君たちの知識量を計りたい」という大学からのメッセージが存在します。
もちろん、このような具体度の高いテーマは、知識が必要な具体度の高い結論が望ましくなります。
例えば、「救急車の適正利用を促すにはどうすればいいか」という具体的テーマが出題されたとして、
対話が大事です!
協調する姿勢が大事です!
といった答案が来られても、添削官は
いや、すでに目の前で起きている現代問題なんだけど… この子の案は現実離れしているし実効性もないなぁ…
といった悪印象を抱いてしまいます。
以上より、“小論文では空気を読むことが大切”という結論が導けます。
✅相手の求めているレベルが抽象的であれば、こちらの結論も抽象的にする
✅相手の求めているレベルが具体的であれば、こちらの結論も具体的にする
このような心構えが肝要なんです。
う〜ん… 抽象と具体の違いは分かったんだけど、なんでそれが提起・分析・解決型、結論先行型の判断に影響するの?
って思いますよね。この点については、次のDと一緒に解説していきます。
D . 制限字数が多い
あくまで目安ですが、800字以上であれば制限字数は多い、400字以下であれば制限字数は少ないと考えて良いでしょう。
こちらの模範解答をご覧ください。
こちらは先ほどお伝えした「人を疑う」の問題を提起・分析・解決型で仕上げたものです。
提起・分析・解決型って間延びした書き方してますよね。
論が過度に進まず抽象的な議論をするのに馴染みますし、字数稼ぎをしたりして文章量が多くなる傾向になります。
だからこそ、抽象度が高いテーマであったり、制限字数が多かったりする問題に適しているのです。
一方、こちらの模範解答もご覧ください。
こちらは先ほどお伝えした「医師の長時間労働」の問題を結論先行型で仕上げたものです。
結論先行型は、「社会の現状」や「反論の受け止め」といった無駄な文章を減らし、第2段落・第3段落といった重要な論点に文章量を割くことができます。そのため、知識をどんどんひけらかす必要がある具体的な議論に馴染みますし、文章量も比較的少なくなる傾向にあります。
だからこそ、具体的なテーマであったり、制限字数が少なかったりする問題に適しているのです。
以上、ABCD分析でした。
A:本文、図表、写真、絵画等、受け止めるべきものがある
B:設問の文言が多義的である
C:設問で問われている内容(テーマ)が抽象的なものである
D:制限字数が多い(目安:400字以下…短い、800字以上…長い)
これら4つの要素を○✕でチェックしていった結果、〇が多ければ提起・分析・解決型、✕が多ければ結論先行型へ進みます。
どうでしょう?
これまでふわっとしていた小論文が、論理的に統制された感じしてきませんか?
それでも、ここまで動画をご覧になった方の中には
「う〜ん… 言ってることは分かったんだけど、実際に問題へぶつかったら対処できるかなぁ…」
と感じる人もいるでしょう。
以下の動画において、3つの例題を通しフローチャートの使い方を具体的にレクチャーしています。
是非ともYouTubeをご覧ください!(よかったらチャンネル登録、goodボタン、コメントをお願いします!)
▼17:12〜 3つの例題を通した解説をしています!▼